第57話    「久しぶりの竿作り U」   平成17年05月09日  

ヤダケを矯めるに、まだ採って来たばかりの竹を矯めても大丈夫だと云う話を加茂の水族館の館長さんに聞いた。採って来て直ぐの竹を芽取りして矯めるのもどうかと思ったが、やって見ると案外簡単に真直ぐに矯めることが出来た。がしかし、しばらく天日に乾かしている内に、やはり曲がりが出て来た。そして矯めて乾かして見る。又少し曲がりが出た。そんなことを数回繰り返した。

以前酒田の三代続く一番の老舗釣道具屋のご主人石黒昭七(竿師 20042月没)から、庄内竿(ニガタケ)は、まだ青味のある内は決して矯めてはならないと聞いていた。ニガタケは、完全に乾かぬ内に火で焙ると、竹の内側がトーフになると云うのである。外側だけが硬くなっていても、内側は柔らかいままでいる。乾かないうちに矯めてしまうと、いつまでもトーフの状態になっていると云うのである。だから「完全に乾かしたニガダケでなければ竿にはならない」と常々話していた。これも長年の経験なのであろうか?

そのかわり彼の天日に乾かすときは、雨の日でも風の日でも関係なく外に置きっぱなしにする。その方が後で家の中に入れて乾燥させた時に竹がかっちりと締まり乾燥も早いと云うのだ。そう云えば以前釣の本で読んだことがあるが、一旦採って来た竹を水に漬け込んでからしばらくして、引き上げ天日で乾燥させると云うやり方もあった。それが何処の地方かは忘れた。ここの店は竿作り三代続く老舗であったから、代々の多くの職人達の実践の知恵から伝えられているのであろう。

その後3月終わりから4月に入って、かっちりと乾燥させたニガタケを矯め始める。生前もっと色々な事を聞いておくべきであったと思う。返す返すも残念である。ところで11月に採って来た竹を正月から矯めていた店も多くあった。まだ二ヶ月も経ってはいないから、竿の中までは乾燥していないかも知れぬ。普及品であれば時間的に45月の販売に間に合う様にした為なのであろうか?今ではそんな人たちもすべて故人になっていて聴くことが出来ない。

竿作りをしていると、頭では理解していた事でも、実際に矯めている時に色々な疑問が湧いて来る。思うように竹がのされてくれない事がある。そこが素人の悲しさで中々竹が云う事を聞いてはくれない。何度か矯めている内に、やつと竹が真直ぐになった。竿作りは気の短い人のやるものではない。中々根気の要る仕事である。一度や二度矯めても真直ぐにならない癖のある竹もあり、時には二、三日置いて何度か同じところを矯め直しを行わなければ真直ぐにしなければならない。矯め方にも色々あり、一種類だけでの矯めようと思っても、駄目で、為の技法を何種類かを用い使いこなさねばならない。昔は使っていたほぼ真直ぐな竹竿のほんの少しの曲がりの修正をする為に、竿ノシ直していた事が多かった自分っては大変に作業である。一からの竿作りでは、多くの竿師の人達との出会いをもっと大切にして色々お聞きすべきであったと云う後悔の念に駆られる日々である。先人の技を盗むまではとは行かなくとも、実践を拝見出来る時間が、欲しかったとつくづく思っている。